メタンクラスレートハイドレートの分子ダイナミクスの研究 |
メタンクラスレートハイドレート(Methane Clathrate Hydrate, MH)はメタンと水分子から構成される低温高圧条件で安定な包摂化合物です。その結晶構造(右の写真)は大変ユニークで、水分子から成る籠型結晶格子(ケージ)の中にメタン分子を包有しています。MH中のメタン分子は水分子の籠の中を比較的自由に動き回ることができ、ガスと固体の中間的なふるまいをします。このメタンの分子運動が他の固体には見られない特異な物性を発現させており、この実態をとらえるべく、私達の研究室では赤外分光法を使ってMHについて調べています。
また、MHは天然においては深海底の下や永久凍土などに存在することが確認されており、将来のエネルギー資源として期待されています。資源として回収して、利用するためにはMHの結晶成長・粒成長速度や分解速度などを知っておく必要があります。それらのカイネティクスの素過程を支配しているのはメタンと水分子の自己拡散であり、拡散係数を測定することによって粒成長速度や分解速度を求めることができます。赤外分光法を使って自己拡散についても研究しています。 |
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(1)メタンクラスレートハイドレートの合成 |
(2)メタンクラスレートハイドレートの分子振動・格子振動 |
(3)メタンクラスレートハイドレートの分子拡散 |
(1) メタンクラスレートハイドレートの合成 |
MHの合成に必要な低温高圧リアクター(下の写真)を作製し、使用しています。この装置によって、原料となる水をメタンガスで加圧して、-20 ~
5℃, ~10 MPaまでのMHの安定条件下でMHが合成できます。リアクターは導入ガスを冷却するための熱交換器を備えており、氷の粉末粒子を出発物質とする氷―ガス界面接触法で合成をすることもできます。この装置を使って、MHの他にも二酸化炭素ハイドレートなどの各種ガスハイドレートの合成も行っています。 |
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(2)メタンクラスレートハイドレートの分子振動・格子振動 |
赤外分光測定によって、MH中のメタンの分子振動と水分子ケージの格子振動を調べることができます。10 Kよりも低温で測定することによってメタンの分子内振動だけでなく回転振動についても調べることができます(下の右図)。分子回転の振動数(~50
cm-1)は分子内振動の振動数(1300~4000 cm-1)に比べると小さく、他の方法では測定するのは困難です。ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を使うことによって、MHに圧力をかけながら赤外分光測定することが可能で、MH相の高圧相についても調べることができます。MHは常温下では、0.9
GPaでII相に1.2 GPaでII'相に、1.9 GPaでIII相に相転移することが知られています(下の左図)。これらの構造中でのメタンの分子回転とケージのメタン占有率についてはよく分かっておらず、解明に向けて実験を行っています。この実験は研究室だけでなく、SPring-8の放射光赤外光ビームラインのBL43IRでも行っています。 |
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(3) メタンクラスレートハイドレートの分子拡散 |
MHは日本海の海底下でも見つかっています。MHを回収する方法として、海底化のMH層に二酸化炭素ガスを注入し、MH中のCH4とCO2を置換して、CH4ガスを回収する方法が提案されています(下の図)。この方法はCO2の固定処分問題とエネルギー資源の問題が同時に解決される点が大変魅力的です。この置換反応速度を見積もるのに必要なMH中のCH4とCO2の交換拡散係数を実験で決定しようとしています。 |
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