中高生向け 科学の最前線 | 吸着科学・炭素材料
🔬 SCIENCE STORY

活性炭は、なぜ
空気から水を生むのか?

除湿剤・浄水器・脱臭剤に隠された「吸着」のひみつと、 それを解き明かした徳島大学・堀河俊英先生の研究

🌍 地球温暖化と戦う 💧 砂漠に水をつくる ♻️ 省エネルギー ☢️ 放射性物質を除去
PART 1   入門

まず「吸着」って何?
除湿剤から考えてみよう

クローゼットやお菓子の箱の中に、小さな乾燥剤や除湿剤が入っているのを見たことがあるよね?あれは、空気中の水分(水蒸気)を吸い取っている。では、なぜあんな小さな粒が、空気中の水をどんどん集められるのだろう?

🧽
「吸着」とは、表面にくっつくこと

スポンジが水を「吸収」するとき、水は内部にしみ込む。でも「吸着(きゅうちゃく)」はちがう。材料の表面に分子がペタッとくっつく現象だ。「吸収」が内側に取り込むのに対し、「吸着」は表面に貼り付く——イメージはひっつく付箋に近い。

では、なぜ小さな粒が大量の水蒸気を吸えるのか。その答えは「表面積」にある。

💡 驚きの事実

活性炭(よく除湿剤に使われる黒い炭素材料)を電子顕微鏡で拡大すると、表面にナノメートル(1mmの100万分の1!)スケールの無数の穴が開いているのがわかる。その穴の表面積の合計は、わずか1グラムの活性炭でテニスコート1面分(500〜1000㎡)にもなる。穴がたくさんあるほど、水分子がくっつける場所が増えるんだ。

🧪 自分で試してみよう

100円ショップで買える「シリカゲル(乾燥剤)」を、密閉できる袋に入れて1日水の上に置いてみよう。翌日、袋から取り出して重さを測ると…吸着の威力が体感できる!(安全のため、食品以外の場所で実験しよう)

・ ・ ・
PART 2   謎

200年解けなかった謎
「水はなぜあんなにへんなの?」

吸着の研究には200年以上の歴史がある。窒素や酸素みたいな気体が炭素にくっつく仕組みはある程度わかってきた。でも、水だけは長年「なぜこんな複雑な動きをするの?」と謎のままだった。

💧
水分子はとても「社交的」

水(H₂O)の分子は、お互いに強く引き合う「水素結合」という力を持っている。一人ひとりバラバラに炭素表面に並ぶんじゃなく、数個が集まって「クラスター(塊)」を作り、そのクラスターがどんどん大きくなって細孔を満たしていく。まるで友達と一緒にしか行動しない集団みたいだ。

この「クラスターがどんな順番で、どこに集まるか」を正確に数式で表現すること——これが堀河先生が挑んだ挑戦だ。

・ ・ ・
PART 3   発見

「Horikawa–Doモデル」
世界が使う理論を作った!

堀河先生はオーストラリアのクイーンズランド大学の研究者・D. D. Do教授と組んで、この謎に正面から取り組んだ。ポイントは「自分で材料を作ること」だった。

まず、50年代以降に改良された高真空・高精度の分析装置を使って、より精度の高い吸着剤のデータを得ることができました。それによって、これまで知り得なかった挙動について新しい知識を得ることができた。

— 堀河 俊英 先生
📊 世界への影響

このモデル(「Horikawa–Doモデル」または「HDモデル」)は現在、世界中の研究者が自分の実験データを分析するときに使っている。「先生の名前がついた数式が世界中で使われている」——これはとてつもない成果だ!

4,735
論文が引用された回数
(世界の研究者に使われた数)
h=31
h-index
(研究者としての実力指標)
92+
発表した論文の数
(20年以上の研究成果)
・ ・ ・
PART 4   進化

炭素に「窒素」を混ぜたら
吸着力が3倍になった!

炭素の表面は基本的に「水を弾く」性質(疎水性)を持っている。そこで水をうまく吸着させるには、表面に「水が引っかかれる場所」を作ることが大切だ。

堀河先生は「炭素の中に窒素原子をまぜたらどうなるか」という実験を行った。アンモニアガス(窒素を含むガス)を流しながら炭素材料を高温で焼くと、炭素のグラフェン層の端に窒素原子が組み込まれる。

⚗️
結果:水蒸気を吸う力が最大3倍に!

窒素原子が「水分子の最初の足がかり」になり、そこからクラスターが育ちやすくなる。まるで「最初の一人が立ったら、みんなが集まってきた」みたいな現象だ。この発見は2012年に世界トップ誌『Carbon』に掲載され、279回も引用されている(Google schoolar, May, 2026 参照)。

🔍 わかったこと

ドープ(混ぜ込んだ)窒素原子のうち約10〜15%が実際に水吸着の「引っかかり場所」として機能する。残りは別の形で炭素の中にいる。XPS(X線光電子分光法)という分析手法で、どんな形態の窒素かまで特定できた。

・ ・ ・
PART 5   応用

この研究が未来を変える
4つの使い道

💧
砂漠に水をつくる

夜、空気中の水蒸気を炭素が吸着。昼に太陽熱で温めると水が出てくる。電気も水道もない乾燥地帯でも清潔な水が手に入る。

🌡️
省エネ冷暖房(吸着式ヒートポンプ)

水蒸気を吸ったり放したりするだけで冷たくしたり温めたりできる装置。電力消費をグッと減らせる次世代エアコンの心臓部。

🏭
CO₂を回収して地球を守る

大気中や工場の排ガスからCO₂を吸着して取り除く技術。地球温暖化の原因を直接減らせる。2026年から新プロジェクト開始。

☢️
放射性物質を取り除く

福島の原発事故後、磁石で回収できる特殊な吸着材を開発。汚染水から放射性セシウムを引き抜く技術で、環境回復に貢献。

🌏 SDGsとのつながり

「安全な水とトイレを世界中に(No. 6)」「エネルギーをみんなにそしてクリーンに(No. 7)」「気候変動に具体的な対策を(No. 13)」——堀河先生の研究は、これら複数の世界目標に同時に貢献できる力を持っている。

・ ・ ・
PART 6   先生の話

なぜ研究者に?
堀河先生の歩み

小学6年生
卒業文集に「博士になる」と書く。「なんとなくカッコいいと思って」と先生は笑う。
高校3年生
1年間アメリカに語学留学。現地の物理の先生が黒板に大きく「I'm Dr. ◯◯」と書いたのを見て「Drって響きがいい!」と感動。博士号取得への憧れが固まる。
大学4年生
配属された研究室で「吸着」に出会う。「研究がとにかく楽しくて、そのまま大学院へ」。
2004年
博士(工学)取得。徳島大学に着任。同時に関西大学ハイテクリサーチセンターの客員研究員にも就任し、二足のわらじで研究を深める。
2010年
日本学術振興会の「優秀若手研究者海外派遣事業」でオーストラリア・クイーンズランド大学へ。1年間、世界最高レベルの研究環境に身を置く。
2011年〜
「Horikawa–Doモデル」発表。世界中の吸着科学者が使う理論として定着する。
現在
徳島大学准教授として研究・教育を続けながら、温室効果ガス吸着の新プロジェクトを率いる。

きっかけは何でもいいと思います。興味を持ったらその信念を貫く勇気と行動力、プラス少しの運があればなんとかなる気がします。

— 堀河 俊英 先生
研究者プロフィール
堀河 俊英 先生
徳島大学 大学院社会産業理工学研究部 准教授
4,735
世界の論文引用数
h=31
h-index(研究力指標)
35
受賞件数

専門は吸着科学・化学工学。「炭素表面への水蒸気吸着機構の解明」という一つのテーマを20年以上掘り下げ、世界標準の理論を構築した。趣味は釣り。「釣れなくてもなぜ釣れなかったかを考えるのが楽しい」という思考法は、研究へのアプローチそのもの。研究室のウェブサイト:www.chem.tokushima-u.ac.jp/C2/